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聖なる空間を訪ねて
旅をしながらスケッチをするようになったのは、いつからだろうか。
中学時代、美術の夏休みの宿題で、スケッチブックに鉛筆で旅や日常の様子を描く課題があったことを思い出す。受験のために通った美術予備校で、鉛筆デッサン、水彩、木炭デッサンを1年間集中して描きまくった時期もあったが、その後は途絶えていた。
多摩美術大学の教員になって学生と接するようになっていたある日、学生が楽しげにやってきて海外旅行中のスケッチを見せてくれた。そこにはその学生の新鮮な驚きと、その場の空気が宿っていた。学生からの刺激が行動を呼び起こし、以来、私も旅先でのスケッチを始めた。時にはスケッチを見に集まってきた子どもたちと話しながら、時には建築を肴にビールを片手に。
この旅先でのスケッチには、自分で決めたルールがある。線は油性のペンで描くこと。下書きも描き直しもしないこと。これが現地の臨場感を表せるのではないかとの理由である。スケッチの良いところは、30分ほどはその建築なり風景や空間に浸り目と手で対話ができることで、これは写真を撮ることとは違った充実感を与えてくれる。
建築にはいろいろな情報が詰まっている。その建築は、見てくれる人にそのことを伝えたがっている。スケッチをしていると建築が語り始めてくれるように感じる。
もうひとつ、建築のスケッチに合わせて旅先のホテルの客室を実測することもセットでやってきた。これには建築を学ぶ上で多くの設計のヒントやスケール感覚を身につけさせてもらった。宿泊費と引き換えに多くのことを学べると考えるとホテル代は安いものである。昔はレーザー測量器等などないので、ホテルの部屋に着くなり荷物はドア近辺に置き、写真撮影。次に部屋の内法を測るため一人でベッドや家具も動かした。たまに夫婦で出かけた旅では、そんな姿を妻に見られしばしばあきれられた。
ここに掲載する36の教会建築のスケッチとエッセイは、キリスト教専門誌『福音と世界』(新教出版社)に連載した「聖なる空間を訪ねて」を、本書掲載のために大幅に書き直した。スケッチは1980–2001年に訪ね歩き、現地でスケッチした世界各地の教会建築の中から選んだものである。
1番目のキリスト誕生ゆかりの地であるエルサレムのヤッフォ門とダビデの塔から、36番目2000年を記念してバチカンが指名して行った国際コンペで建築されたローマのジュビリー教会まで、おおよそ建築された年代順に並べてある。
キリスト教の教会設計を専門としている私にとって、過去の教会建築と向き合うことは、歴史・人物・建築を絡めて調べることができ、キリスト教と建築の流れを学ぶ良い機会となった。
文章・スケッチ:田淵 諭
田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より

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