TRAVEL & SKETCH 02/36

カッパドキア

トルコ/中央アナトリア地方

カッパドキアのスケッチ(田淵 諭)
スケッチ:田淵 諭

学生時代、建築の教科書でスケール感のない古ぼけた写真を見て以来、念願叶ってやっと本物の奇岩を目の前にしたのは40代も終わり近く。

カッパドキアはトルコ中央部アナトリア地方にあり、四方30kmに及ぶ奇岩地帯である。ここに人が住み始めたのは紀元前8000年頃。キリスト教徒たちがローマ帝国の迫害を逃れ隠修士として住むようになったのは3世紀半ば。浸食が進んだ岩をくり抜き、そこに修行の場や教会を建設した。はじめは岩に穴を掘ってそこを僧坊とする簡単なものだったが、その後、より高い精神性を求め大きな教会を掘り上げた。ピークには延べ6,000もの教会があったという。多くの天井や壁には、ビザンティン教会を意識した素朴で象徴的なフレスコ画が描かれている。このような荒涼とした地で信仰に命を賭けた人々の一途さ、ひと掻きひと掻き何年も掛けて掘り進めてできた空間の豊かさに圧倒された。

この地域をもうひとつ有名にしている要素にカッパドキアの三大教父の存在がある。バシレイオスは修道制を確立し、弟のニュッサのグレゴリオスとナジアンゾスのグレゴリオスは381年コンスタンティノポリス公会議で「三位一体論」の確立に絶大な影響を与えた。

奇岩と教会と僧坊を訪ね、徒歩とタクシーで巡った3日間。タクシーの運転手が、彼の母の住む岩屋にも案内してくれた。凹凸のある床に柄の違う何枚もの絨毯が敷かれた室内は、予想以上に広かった。明日はここを去るという日の夕暮れ、クズルチュルクの谷を見下ろす丘を訪れた。ここから見る夕日が美しいと彼に聞いたからである。その時目にしたのは、見渡す限りの世界が赤インクに染まっていく奇岩の大地であった。それは遥か昔、キリスト教に導かれた修道者や三大教父が見た景色と同じものだったのかもしれない。

文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より