TRAVEL & SKETCH 09/36

ヴェズレーのサント・マドレーヌ大聖堂

フランス/ヴェズレー

ヴェズレーのサント・マドレーヌ大聖堂のスケッチ(田淵 諭)
スケッチ:田淵 諭

時間の限られた旅でフランスのロマネスク教会を訪ねるには、車がありがたい。パリからレンタカーでブルゴーニュ地方にあるヴェズレーのサント・マドレーヌ修道院をめざす。食料自給率が100%を超える国の豊かな穀倉地帯を走る。なだらかな丘の上に聖堂が見えても丘の麓までは随分と遠い。村外れに車を停め参道の坂を登っていく。

聖堂の入り口を入るとロマネスクを代表するナルテックス(玄関間)があり、中央扉上の聖霊降臨を表したフランス一といわれる彫刻群が目に飛び込んでくる。弟子たちの頭に手をかざすイエスの姿を見ていると、その遺志がこの教会に継がれていることを感じる。扉の先には白とグレーの石で彩られた聖堂内が見える。聖壇奥の縦長窓から白い光が降り注ぎ、浮遊感に溢れた空間に息を呑む。他のロマネスク建築にこの明るさはない。身廊部分はロマネスク建築、聖壇やアプス部分はゴシック建築として増築された。聖堂の透き通るような美しさの中に、人々の生活に対する戒めや教訓、聖書の物語やギリシャ神話までもが彫られた100ほどの柱頭が並ぶ。蛇や怪獣、髪を逆立てた悪魔などの彫刻はどこかユーモラスで口元が緩む。

この聖堂は、9世紀半ばジラール・ド・ルシオンによって創設された修道院に始まる。その後マグダラのマリア(サント・マドレーヌ)の遺骸を安置する聖堂として、またサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路の出発点のひとつとして繁栄する。1146年には、クレルヴォーのベルナルドゥスがこの丘で第二次十字軍を派遣すべきであると説いたという。しかし、13世紀後半本当の遺骸(?)がサン・マクシマンで発見されるとヴェズレーは寂れ、1537年修道院は封鎖された。現在はエルサレム会の修道院として使われている。

参道に埋め込まれた幾つものホタテ貝を見て、遥か彼方サンティアゴに思いを馳せた。

文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より