TRAVEL & SKETCH 11/36

サン・ドニ大聖堂

フランス/パリ

サン・ドニ大聖堂のスケッチ(田淵 諭)
スケッチ:田淵 諭

パリから地下鉄で20分ほど。1998年ワールドカップ・フランス大会決勝が行われたスタジアムのあることでも有名なサン・ドニ。駅前にその教会はひっそりと建っている。1144年に完成したこの教会は、ゴシックの黎明期を告げる教会建築とされるが、建築史上またフランスの歴史上重要な役を担っているようには見えない。

この教会ができるまで主流だった教会建築様式はロマネスクで、厚い壁に小さな窓とかまぼこ天井といった造りである。これは当時の建築技術で大空間をつくる一般的な方法であった。

この教会は、250年頃殉教したというパリ初代司教聖ドニの墓の上に修道院を建てたのが始まりである。その後寂れかけたが、シュジェールという修道院長が改築を繰り返して復興させた。この改築時に考え出されたのが、後のゴシック教会建築の定番ともなった入り口正面のバラ窓である。彼はこの窓だけでなく、会堂の側面にも多くのステンドグラスを入れ天の光で会堂内を満たそうと考えた。ロマネスクでは不可能だった、壁に大きな穴を開けることを実現させるために考え出された方法が、尖頭アーチと外部に造られた飛び梁(フライング・バットレス)である。これによって、天へ向かって伸びる空間を横から支えることが可能になった。

ここは、フランス王家歴代の墓所になっているにもかかわらず訪れる人も少なく、静謐な空間となっている。内陣の周囲にはリブヴォールト屋根の歩廊が巡らされ、周歩廊に面して放射線状に祭室が設けられている。ここを歩いてステンドグラスからの光を体に浴びると、天上の光を求め建築を進めたシュジェールと職人たちの熱い思いが伝わってくる。

なお、この教会は1789年のフランス革命以降修道院から一般の教会となり、1966年にはカテドラルとなっている。

文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より