TRAVEL & SKETCH 28/36

ロンシャンの教会

フランス/ロンシャン礼拝堂

ロンシャンの教会のスケッチ(田淵 諭)
スケッチ:田淵 諭

パリに住む従兄の運転する車でスイス国境近くのロンシャンに向かった。着いたのは閉館直後の夕暮れ。「明日はもう日本に帰らなければならない」と懇願し門を開けていただいた。長椅子だけが並べられた大きな空間が、細いローソクと小さな窓々からの薄明かりに浮かぶ礼拝堂。従兄が歌う「もろびとこぞりて」に静かな喜びを感じた。

翌朝、朝日を受ける礼拝堂を体験するために再び教会を訪ねた。礼拝堂内部は薄暗いが、南面の壁に穿たれた25のステンドグラスから目映い光のアラベスクが降り注いでいる。ル・コルビュジエはここに、主の恵みである光と祈りの静寂を封じ込めたのに違いない。

祭壇周りは質素で、床に置かれた十字架、石の祭壇、正面上部に開けられた窓にはマリア像が朝日に浮かび上がっている。長廊式の会衆席はステンドグラスの窓に寄って設えられ、そこに朝日が射し込んでくる。

かつてこの丘にはドミニコ派の巡礼教会があったが、第二次世界大戦で破壊された。その後、ドミニコ会の修道士でマチスに礼拝堂を依頼したことでも知られるクチュエリ神父がル・コルビュジエに設計を依頼した。この依頼に対し、プロテスタントとして躊躇したともいわれている。設計に3年を要し1955年に献堂した。

ル・コルビュジエは近代建築の創始者であり、機能的な建築を推奨し、幾何形体の建築を造ってきたことで有名である。そんなル・コルビュジエが唯一有機的な形でまとめ上げたのがこの礼拝堂である。海岸でカニの甲羅から構造的ヒントを得て、この屋根を設計したといわれている。68歳にして最初で最後の曲線の建築。理念から自らを解き放ち、祈りや信仰という内面と向き合ったル・コルビュジエの姿の感じられる珠玉の空間である。

文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より