ロンドンには名所が幾つもあるので行くところに迷うが、教会建築をひとつ見ようとするなら、歴代の国王の戴冠式が行われるウエストミンスターをお薦めしたい。
地下鉄ウエストミンスター駅から地上に出て、目の前のビッグ・ベンを左手に進むと、まもなくセント・マーガレット教会越しにウエストミンスターが現れる。北翼廊から入っていくと祭壇と聖歌隊席に出る。ここは、修道士の礼拝生活の中心であったが、1540年に修道院は廃止。いったんベネディクト会として再生したがこれも数年で国教会となった。
ウエストミンスターは、960年頃ロンドン司教が12名の修道士をこの地に配属したことに始まる。1065年にはエドワード王がノルマン様式で教会を建立。当時修道院はミンスターと呼ばれ、テムズ川下流のセント・ポール大聖堂がイーストミンスターと呼ばれていたため、こちらの教会はウエスト(西の)ミンスターと呼ばれるようになった。現存するものは1272年ヘンリー3世によるゴシック建築である。
フランスに生まれたゴシック建築だが、14世紀以降はイギリスやドイツのゴシック建築がヨーロッパの主流となる。このウエストミンスターは、フランスのアミアン大聖堂等を参考にヘンリー3世がフランスから外壁の石を取り寄せ、バラ窓や高天井の教会堂を計画。イギリス・ゴシックとフランス・ゴシックの混じり合った独自のものとなった。イギリス・ゴシック建築は「初期イギリス式」「装飾式」「垂直式」の3期に分けられるが、16世紀に増築された主祭壇奥のヘンリー7世礼拝堂は、後期垂直式ゴシックの最高傑作といわれている。細く伸びる柱とその上部にシュロの葉の葉脈のように広がる扇状ヴォールト。天井は繊細なレース編みかと見まがう。石でここまで軽やかにできるのかと驚嘆しながら、天上への祈りを込め人々は皆一様に天井を見上げる。
文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より

