TRAVEL & SKETCH 35/36

聖ベネディクト教会

スイス/クール

聖ベネディクト教会のスケッチ(田淵 諭)
スケッチ:田淵 諭

スイスの古い町クールから1時間余り、山間のつづら折りの道を車で行く。魚の鱗のようなこけら葺きの外壁に平らな屋根を載せた小さな教会が見えてくる。屋根は欅の葉のような形をしている。スイスの伝統的な木造住宅を活かした造りというが、風雨に晒された木の肌は周りの風景に溶け込み古民家のようだ。

1943年スイス・バーゼル生まれのピーター・ズントーが、雪崩で崩壊し廃墟となった中世の教会を建て替えるため、標高1,270mの小さな村にこの教会を設計した。

教会の前には丸太をくり抜いた水桶に湧き水が溢れ、乾いた喉を癒やしてくれる。これは洗礼槽も兼ねているのではないかと思う。教会の扉を開くと、木の葉の形をした、30人も入ればいっぱいになる小さな礼拝堂。その造りはシンプルで質素である。天井は葉脈のような天井の木組みで、幾本もの細い木の柱に支えられ、屋根が宙に浮いているように感じる。これ以上削ぎ落とすことのできない祭壇や長椅子の形、床材。どれもが地元で取れた白木のムク材で、塗装もされていない。自然木には経年変化による美しさがある。葉の形通りにぐるりと開けられた高窓からは朝日が射し込む。清貧な素材の持つ美しさと空間の豊かさに浸る。

完成は1989年。2009年ズントーはプリツカー賞を受賞。彼の作品集には、この教会に関して「デザインはこの地方の中心となる教会のイメージを受けたものである。それは、安心感、柔らかさ、品位、落ち着き、専心性といったことである。沈思の場、そして生の空間」というコメントがある。村人が大切に守る教会。時代も場所も造りも違うが、長崎の外海や福江で見た小さな教会を思い出した。

文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より