エルサレムからベツレヘムまで、乗り合わせたバスには数人しか乗っていなかった。途中検問所なのだろうか銃を持った兵士たちが乗ってきて、全員のパスポートを点検した。2人が降ろされた。車窓にはユダの荒涼とした大地が広がり、人影もなく、ベツレヘムでキリスト降誕の地を見ることができると弾んでいたはずの私の気持ちを不安にさせた。終点で降り、少し歩くと聖誕教会の前庭に出た。
聖誕教会はローマ皇帝コンスタンティヌスによって建設が始められ、339年に完成した。現在の建築は6世紀のユスティニアヌス帝のものといわれている。教会の大きさと比べ、その入り口は小さく低く、ポツンと開いていたのが印象的だった。なるほど聖書にある通り「狭き門から入りなさい」ということかと思うと同時に、日本の茶室のにじり口(躙口)を思い出した。しかし、これはキリストを前にして心を無にし小さく入れという意図で造られたのではなく、1646年頃トルコ軍の侵入を防ぐために高さ1.2mほどの入り口にしたとのこと。「人の扉」といわれている。
聖誕教会はバシリカ式で、石の床と木造の屋根との対比とそこから漏れる光が美しい。正面祭壇の下には降誕の岩屋があり、ギリシャ正教の管理下に置かれ、銀製の星形がイエスの生まれた場所を示していた。
この教会には、聖カテリーナ教会が隣接し、ヒエロニムスが385年から420年に死ぬまで激しい迫害の中で聖書のラテン語の翻訳を完成するために過ごしたという洞穴も残っている。聖カテリーナ教会の中庭に出ると、ヒエロニムス像が緑と光に包まれ、静かに佇んでいた。
文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より

