ガリラヤ湖畔の町ティベリアのレストランで食べたセントピーターフィッシュの大きさには驚いたが、味は淡白でおいしかった。そこからバスでカペナウムに向かう。ひとり旅をしていると、時刻表を調べ、片言の英語や身ぶり手ぶりで目的地に近づく。なかなか来ないバス。不安な気持ちで乗り継ぐと、脇を大型観光バスが楽しげな客を乗せて通り過ぎてゆく。しかし、大変な思いをすればするほど旅の達成感は大きい。ガリラヤ湖畔を歩いていると、2,000年前のイエスの歩みを追体験でき、困難も大きな喜びに変わっていく。
カペナウムのシナゴーグ跡からは歩いて山上の垂訓の丘に着いた。この丘に1930年代フランシスコ修道会によって山上の垂訓教会が建てられた。ガリラヤ湖が一望できるこの教会を背に、群衆に教えを説くイエスの姿を想像する。「求めよさらば与えられん」「狭き門より入れ」などの有名な御言葉がここで生まれ、さらにイエスが十二使徒を選んだのもこの丘だといわれている。教会周辺には、名も知らぬ小さな赤い花が夏の終わりを惜しむように静かに咲いていた。「今日は生えていて、明日は炉に投げ込まれる野の草でさえ、神はこのように装ってくださる」(マタイ6:30)という聖書の一節を思い出した。
この教会は八角形をしており、内部は中央に祭壇を囲む形で周りに会衆席が並ぶ。そして中央吹き抜け上部の8カ所のステンドグラスには、幸福へ至る8つの教えがラテン語で書かれている。ここから祭壇周りに美しい光が射し込んできていた。マタイによる福音書5章の「幸いなるかな」で始まる祝福の数に従って会堂が八角形になっているという。この一帯は、教会堂内部より丘の林の外部空間に聖なる雰囲気を強く感じた。見学を終え、心地よい風に当たりながら教会のスケッチをした。帰りのバスの時間のことをすっかり忘れていた。
文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より

