2000年に初めてイスラエルを訪ねた。エルサレム新市街の繁華街は観光客で活気を呈していたが、よく見ると銃をたすき掛けにした若い男女の兵士が多く、世界情勢の厳しさに身が引き締まった。
新市街から東に歩くとすぐに城壁が見える。エルサレムストーンというベージュの石灰石でできたこの城壁は、1540年頃に再建されたものである。全長約4kmの城壁の中が旧市街地で、そこには岩のドームの神殿の他、聖墳墓教会、キリストが十字架を背負って歩いた道「ヴィア・ドロローサ」などが残り、2,000年前の出来事が凝縮しているようである。城壁内はキリスト教徒地区、ユダヤ人地区、イスラム教徒地区、アルメニア人地区に居住区が分かれ、それぞれ独特な空気感を醸し出している。
城壁は8つの門を持つ。そのひとつヤッフォ門は城壁の西に位置する。ここを入ると門の優雅な風情とは一変して、多くの土産店が建ち並び、行き交う客と店員のやり取りで賑わう楽しい路地となっている。この門の脇には歴史博物館とダビデの塔がある。
ヘロデ王は紀元前1世紀、ヤッフォ門近くに3つの塔を増築した。そのひとつがダビデの塔と呼ばれる。ダビデがバテシバの入浴姿を見たのがこの塔からといわれるが、これは伝説。この塔は1655年に建てられたものとのこと。ルーブル美術館で見た《ダビデ王の手紙を持つバテシバ》は、この再建の前年(1654年)にレンブラントが描いたというから、何か繋がりがあるのだろうか。ここからは、岩のドームや旧市街地が一望でき、城壁外側にオリーブ山が見渡せる。
太陽が西に傾く頃ヤッフォ門を出ると、夕日が門や城壁に当たり、エルサレムストーンが輝いていた。「黄金のエルサレム」と謳われた意味がわかる瞬間だった。
文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より

