ノルマンディーの海辺の町から、バスでモン・サン・ミシェルに向かう。どこまでも続くなだらかな平原の先に忽然とそれは現れる。シルエットがどんどん大きくなっていく。年2回の大潮の時、干潟は一瞬にして水深が15mにもなって巡礼者を飲み込んだというが、今では島と陸は道路で結ばれている。
モン・サン・ミシェルは、高さ80m、周囲950mほどの切り立った花崗岩の上に築かれた修道院である。その歴史は8世紀まで遡る。ある夜、この岩の対岸の町を統括していたオベール司教の夢に大天使ミカエルが現れ、「岩上に教会を築け」と告げ、小聖堂を建てたのが始まりである。10世紀半ばベネディクト会の修道士が招聘され、中世、ここは修道士たちが教義や数学、天文学、医療技術を学ぶ一大研究センターであったという。また、大天使の守護を求めて多くの人々が巡礼に訪れるようになる。そのため、修道院建築の1階は巡礼者用に開放され、2階は謁見の間、3階は礼拝堂と食堂といった中世修道会的ヒエラルキーに基づいた構成からなっている。海抜150mの大聖堂の頂には、大天使ミカエル像が輝く。
800年にわたり増築を重ねたため、建物はロマネスクからゴシックまでの時代の変遷を併せ持つが、そのどこを見ても構造の美しさは秀逸である。最上階には屋上庭園式の回廊があるが、厳しい自然の中でどんなにこの空間によって救われたであろうかと思われる瞑想の場となっている。
見学を終え、本土との間を結ぶ道路脇の干潟を歩いて帰る途中、モン・サン・ミシェルの背後に大きな虹が掛かっているのを見つけた。気分はさながら巡礼者の喜びであった。
文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より

