エルサレム城壁内は、世界遺産の紹介などで見る神聖で静けさに満ちたところと違い、人々のうねるようなエネルギーを感じる地だった。この地にとって、キリストは2,000年前の過去の人ではなく、今も共にいるということなのだろうか。
城壁内の路地には、キリスト教の歴史的建造物の横にイスラム関係の店舗が並び、物売りの掛け声や礼拝に向かう人々の会話、ヴィア・ドロローサ巡りをするキリスト教徒の団体から聞こえる讃美歌、人いきれと店舗から流れ出てくるエスニック料理の匂いで熱気を帯びていた。
城壁内は宗教の違いによって区画に分けられており、キリスト教内でも更に宗派によって幾つかに分かれている。観光客相手の土産物を売る通りをしばらく進むと、突然静まりかえった路地に出る。その不思議な空間を抜けると、ゴルゴタの丘の聖墳墓教会が現れた。
聖墳墓教会は325年頃コンスタンティヌス帝によって建てられ、その後火災や戦火で何度も損傷したが、12世紀半ばロマネスク様式の教会が再建された。以後、カトリック、ギリシャ正教、アルメニア正教会、コプト正教会、シリア正教会、エチオピア正教会の6つの宗派によって集団管理されている。大きなドームの教会奥に、入れ子状態の重々しい石造りの建築があり、黒い聖衣をまとった多数の聖職者が厳重に取り囲み守っていた。キリストの墓とされている場所の上には足形の石があり、これに口づけする人が長蛇の列をなしていた。
聖書にあるような自然の岩を掘って造られた墓を想像していた私は、この墓と称する建築にはいささか違和感を覚えながら教会を後にした。
文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より

