TRAVEL & SKETCH 12/36

ル・トロネ修道院

フランス/プロヴァンス地方

ル・トロネ修道院のスケッチ(田淵 諭)
スケッチ:田淵 諭

訪ねたければすぐ会える建築もあれば、何度計画を立ててもなかなか会えない建築もある。ル・トロネ修道院は、近くまで行きながら仕事で急遽帰国を余儀なくされたり、体調を崩しパスせざるを得なかったり、思いは募りやっと行けた時の感動はひとしおだった。

11世紀の宗教界に大きな力を持っていたクリュニー派修道院。その堕落に異議を唱え、ベネディクトスの戒律に立ち戻ることを旗印に設立されたのがシトー派修道院である。自給自足を基としたシトー派の観想修道院は、修道生活により集中するため人里離れたところに建設された。南仏の山中には、プロヴァンスの三姉妹と称されるセナンク、シルヴァカーヌ、ル・トロネの修道院がある。中でもル・トロネは装飾を一切排し、徹底して純化された簡素で厳格な空間を持つ。20世紀を代表する建築家ル・コルビュジエもラ・トゥーレット修道院を設計する際に何度も訪れたといい、現代でも多くの建築家に影響を与えている。建築家プイヨンによって書かれた小説『粗い石』には、この修道院の造られる様が当時の工事監督、修道士そのものが語るように描かれていて興味深い。

回廊の一部を切り取った小さな入り口から建物に入る。回廊は、ヴォールト天井と列柱、敷地の起伏に沿ってつくられた階段を伴う空間である。中庭から射し込む光は奥行きのある列柱に当たり、天井に光が回っている。その光で天井が持ち上げられているかのように感じる。修道士たちは日々何を想って回廊を巡り、どのような祈りを捧げていたのだろうか。回廊から聖堂に足を踏み入れると、壁に穿たれた小さな窓が浮かび上がっている。仄かに赤みを帯びた石の壁は、光によって柔らかい布のような素材に姿を変え、聖堂空間を包む。

長椅子に座っていると、祖父、父、息子の3人連れが入ってきて聖歌を歌い出した。聖堂は光と賛美に満ち、重なり合う響きは永遠の時を刻むかのように感じられた。

文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より