ローマは初期キリスト教建築の宝庫である。初めてローマを訪れた時、感激のあまりシャッターを押し続けた。やがて、これではファインダー越しにばかり教会を見ることになると気づき、カメラはほどほどにしてスケッチを始めた記念すべき街である。
テルミニ駅から2kmほど東に行ったところにサンタ・コンスタンツァ教会がある。教会の広い敷地内には、美しい庭を持つサンタニェーゼ・フォーリ・レ・ムーラ教会もあり、この教会の内部階段を抜けるとサンタ・コンスタンツァ教会に向かう道に繋がる。何の変哲もない階段なのだが、奥から射し込む光に息を呑む。「ヤコブの階段」を連想させる聖なる空間である。
サンタ・コンスタンツァ教会は、350年頃コンスタンティヌス帝の娘の霊廟として建設されたといわれる。建物内はコリント式の柱が2本一組となり、これが12組のアーケードを形作っている。列柱の外側には側廊があり、内側は壁面に12の高窓が開けられている直径約20mのドームになっている。アヤ・ソフィアの構法を思わせるが、建築的には四角平面のバシリカ建築の断面をこの円形平面に適用した貴重な建物である。また、注意して見ると側廊周りの4つのニッチ(くぼみ)によってギリシャ十字が形作られていることに気づく。建設当時は霊廟として、その後洗礼堂として使われ、やがて集中式の礼拝堂となった。石棺は、現在バチカンに展示されている。
この空間に身を委ね、光の舞う石やモザイクタイルの壁面を見ていると、建築は外観も大事だが内部空間が大事なのだとつくづく思う。外観は目に訴え、内観は心に訴える。前日カメラと財布を盗まれ自分の不注意に落ち込んでいた気分も、この礼拝堂でオルガンが石に響く至福の時を持つことで、随分と慰められたのであった。
文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より

