TRAVEL & SKETCH 33/36

ネヴィゲスの巡礼教会

ドイツ/ネヴィゲス

ネヴィゲスの巡礼教会のスケッチ(田淵 諭)
スケッチ:田淵 諭

デュッセルドルフからの列車は停車駅を重ねるたびに人が降り、行く手が心細く思える旅である。ゴットフリート・ベームという建築家の名前と作品を知ったのは、大学を出てから数年経ってのこと。ネヴィゲスの巡礼教会(1968年完成)を写真で見た時、教会としてはあまりにも独創的な形に衝撃を受けた。今その教会を見に行こうとしているのだ。

小さなネヴィゲス駅のホームから、写真で見ていた巡礼教会のごつごつした岩山のような塊が見え隠れしている。ちょっと不気味なイメージそのままの建物がそこに姿を現した。建築を見て歩く旅は、憧れの人物との対面に似ている。イメージはひとり歩きし、出会ってみたら思いもしない良さに気づくこともあり、その反対もある。時間と空間を共有して思いの変わることも多い。

駅前は、この巡礼教会と関連施設を中心に開けている。幼稚園や巡礼者用の宿泊施設の先に、鉱物の結晶のような鉄筋コンクリートの教会堂正面が見える。緩やかな階段を上がると、自然に教会の玄関ホールに導かれる。玄関周りには他に開口部らしきものがない。

中に足を踏み入れる。暗さに目が慣れるまで、そこが礼拝堂であることすらわからない。しばらく佇んでいると、頂部に穿たれた開口部から一筋の光が礼拝堂内を照らしていることに気づく。視線を変えると天に伸びる大きな階段の後方開口部と、祭壇脇奥のステンドグラスからわずかに光が入っていることにも気づく。やがて、これらのかすかな光によって、コンクリートにくり抜かれた何層もの回廊や天井が見えてきた。会衆席に座ると、最初の印象はどこかへ飛び去り、無になって空間に浸ることができた。

父ドミニクス・ベームは283ページで紹介したエンゲルベルト教会を設計。息子のゴットフリートは1986年プリツカー賞をドイツ人として初めて受賞。2021年に101歳で逝去した。

文章・スケッチ:田淵諭『光と祈りの礼拝堂』(教文館、2023)3章「旅とスケッチ 聖なる空間を訪ねて」より